入居者の家賃滞納。大家である消防士の対応は?

長期間にわたって不動産投資をしていると、入居者トラブルに巻き込まれることもあります。中でももっとも困るトラブルは、家賃の滞納です。

消防士の不動産投資では管理会社に管理業務を委託しているはずなので、家賃滞納があった場合も、その入居者への督促などのやり取りは、管理会社が担当してくれるでしょう。しかし、滞納が続いた場合にどのように対応するかといった基本的な方針は大家である消防士が管理会社に指示しなければなりません。

そこで、本記事では、家賃滞納が続いた場合に大家として取るべき対応について、基本を解説します。

家賃滞納が発生したらとにかくすぐに連絡を取る

コロナ禍で家賃の滞納や減額要請が増えていることが、一時期よくマスメディアで報道されていました。一時期ほどではないとはいえ、その状況は現在でも続いているでしょう。

では、家賃滞納が発生した場合、オーナーはどのように対応すればいいのでしょうか。

ここで前提を確認しておきますが、消防士の不動産投資の場合、管理業務は管理会社に委託をしているはずです。

というのも、人事院規則において公務員には業務専念義務が定められており、不動産投資はその義務に反しない範囲内でしか認められないからです。公務員が大家業としての管理業務を自分自身で行うことは、この業務専念義務に反していると判断される恐れがあります。

そのため、消防士の不動産投資においては、管理業務はすべて管理会社に委託するのが基本です。本記事でも管理会社を利用していることを前提に説明します。

一口に家賃滞納といっても、様々なレベルがあります。自動引き落としではなく、振り込みしてもらう方法なら、「うっかり振り込みを忘れていた」だけ、ということもあるでしょう。しかし、いずれにしても滞納があることが分かったら、すぐに入居者に連絡を取ることが大切です。うっかり忘れていただけなら、すぐに振り込んでくれて解決するでしょう。

払えない、連絡が取れないなどの場合

問題は、連絡をしても払ってくれない、あるいは連絡が取れない場合です。そのような場合、オーナーとしてどうするのか、決断が求められます。

まず、なんらかの事情(コロナ禍よる失職など)で、お金がないので払えない、といわれた場合。この場合は、いつまでになら払える見込みがあるのかを聞いて、たとえば1カ月後には払えるというのであれば、それまで待つということも一つです。ただし、その期日まで待っても払えなければ、次のステップに進みます。

また、そもそも払う意志がない場合や、連絡が取れない場合は、家賃保証会社を使っているか、いないかによって対応が異なります。

家賃保証会社を使っている場合

家賃保証会社を使っているのなら、管理会社が家賃保証会社に連絡をします。すると、家賃保証会社が入居者に代わって家賃を支払ってくれます。そして、以後の入居者への督促は、家賃保証会社が行うことになります。

家賃保証会社を使っていない場合

家賃保証会社を使っていない場合は、親族などに保証人を頼んでいるはずです。管理会社から保証人に連絡して、保証人に家賃を支払ってもらうように依頼します。保証人がすぐに支払ってくれるか、入居者を説得して入居者から支払ってもらえれば、それで解決します。しかし、保証人も支払わず、入居者も支払わないままとなれば、次のステップに進みます。

内容証明郵便で督促する

そこまでやっても支払ってもらえない場合、退去してもらいたくなるでしょう。

しかし、日本では不動産の賃借人に非常に強い権利が認められているため、すぐに追い出すことは不可能です。もしオーナーが感情的になって、カギを取り替えたり、無断で入室して入居者の荷物を運び出したりなどの強制手段を取ると、逆に相手から損害賠償請求をされる恐れがありますので、絶対にそのようなことをしてはいけません。

まず、家賃をすぐ支払って欲しいこと、支払えないなら退去して欲しいことなどを、内容証明郵便で管理会社から送付します。内容証明郵便とは、書いた内容が記録に残る郵便です。あわせて配達証明もつけて確実に督促した証拠を残します。これは後の訴訟に備えるための措置です。

なお、この段階で「家賃は払えないが、このまま出ていきたい」ということが入居者から伝えられることがあります。そういう場合、その要求を受け入れることも検討しましょう。あるいは逆にこちらから、管理会社を通じて「滞納した家賃については払わなくていいから、出ていってほしい」といった提案をしてもいいでしょう。これを「任意の明渡し請求」といいます。

1、2カ月分の家賃はまるまる損失になりますが、そのまま入居されていると、その後もずっと家賃が入らない危険があります。しかも、後で触れますが、訴訟をして強制退去させようとすると、時間と多額の費用がかかります。

それなら、1、2カ月の家賃の損には目をつむって、穏便に退去してもらい、さっさと次の入居者を探す方が、長い目で見て得だという判断です。

公務員には世間の目もある

また、公務員である消防士ならではの事情として「世間の目」ということもあります。公務員が副業として不動産投資をしているというだけで、よく思わない人も中にはいます。裁判で入居者を強制退去させたといった評判が立つと、まったくの合法的な行為であっても、何かと悪くいう人も出てくる可能性もあるでしょう。それなら、穏便にことを済ませる方が得策になることが多いでしょう。

家賃も支払わず、退去もしない場合は法的措置を取る

内容証明で3カ月程度の間督促をしても家賃が払われず(滞納期間が3カ月以上になり)、また、任意の明渡し請求にも応じてもらえない場合は、法的措置を取るしかありません。

法的措置には、「支払督促」や「少額訴訟」といったものがあり、これらは財産の差押えを可能にします。しかし、そもそも家賃が支払えない人なので、差し押さえるような財産がない場合がほとんどでしょう。あるいはお金をどこかに隠されていたら、それを探すことは非現実的です。したがって、これらの措置はあまり有効ではありません。

また、「支払督促」や「少額訴訟」では、強制的に入居者を退去させることまではできません。

強制的に退去させるには「明渡し訴訟」という裁判を起こして、判決を得るしかありません。

ただし、明渡し訴訟は、人間にとって非常に大切な「住む場所」を奪うための裁判なので、それなりに時間も手間もかかります。判決が出されるまで、最低でも6~7カ月ほどかかります。また、明渡しが認められるには、最低でも3カ月以上の家賃滞納が必要です(2カ月程度の滞納では認められない)。

明渡し訴訟で判決が出れば、強制執行が可能になります。入居者本人が自主的に出ていかなければ、執行官が文字通り体を押さえつけて、強制的に退去させます。

強制退去の実行には、動産執行、明渡執行予納金、解錠技術費、執行補助者、作業員、運搬用車両代など、様々な費用がかかります。

一般的には、ワンルームマンションの場合でも、50万円前後の費用がかかることが普通です。さらに、それとは別に、裁判の弁護士費用や訴訟手続費用なども必要です。

先に、1、2カ月の家賃は諦めてでも穏便に出ていってもらう方がいいと書いたのは、強制退去にはこのように高額の費用と、半年以上の時間がかかるためです。

なお、ほとんどの家賃保証会社では、退去の際の残置物処理費用や明渡し訴訟の費用なども、一定の範囲内(賃料の24カ月分程度)で保証してくれます。

まとめ

入居者にも事情があるとはいえ、家賃滞納が発生すると、オーナーには、経済的・精神的に多大な負担がかかります。

そのため、もっとも大切なポイントは、入居時点で滞納を防ぐための対応をしておくことです。しかし、いくら審査を厳しくしても、入居時点ではきちんとした経済的基盤がある人がコロナ禍のような想定外の事情で困窮してしまうことはありえます。

そこで、本人が困窮しても対応できるように、経済的な余力がある保証人を2人つける、家賃保証会社を必ずつけるといったことで、家賃滞納リスクを軽減できます。

滞納は入り口での予防が大切ということを覚えておきましょう。