公務員である消防士の所得税、住民税の計算、納付は職場で行ってもらえます。しかし、副業の不動産投資から家賃収入を得た場合、その収入については原則として自分で確定申告をしなければなりません。
ここでは、家賃収入の確定申告の基本について解説します。
そもそも、確定申告とは?
所得税の確定申告とは、1年間の所得の詳細を計算して税務署に報告し、その所得に対する所得税(復興特別税、住民税などもあわせて)を確定させる手続きです。
確定申告においては、所得は10種類に区分されています。そして、不動産投資をしていて家賃収入がある人は「不動産所得」という区分の所得を申告することになります。
確定申告の時期
確定申告の義務がある人は1月1日から12月31日までを課税期間として、その1年間に生じたすべての所得について、翌年の2月16日から3月15日までに確定申告書を税務署に提出する必要があります。
収入と所得の区別は重要!
「収入」と「所得」は、日常会話では同じような意味で使うこともあります。しかし、税金の計算においては、両者はまったく異なり、厳密に区別されているので、しっかり違いを理解してください。
税金の計算において、「収入」とは、入ってくるお金全体のことです。たとえば、所有している賃貸不動産の家賃が月7万円だとしたらその7万円が収入です。税金計算は1年単位でおこないますので、年間で考えると、84万円の「収入」があるということです。
一方、「所得」とは、収入から必要経費を引いた残りです。
収入-必要経費=費用
例えば、賃貸している不動産に関して、
・管理会社への委託費:年間5万円
・損害賠償保険料:年間2万円
・銀行融資の利息:年間10万円(融資元本の返済は経費にはなりません)。
・減価償却費:年間50万円
の費用を計上しているとすれば、
84万円-(5万円+2万円+10万円+50万円)=17万円が、税金計算上の「所得」の基準になります。
年間20万円を超える不動産所得がある人は、確定申告が義務
消防士など、給料をもらっている人が不動産賃貸業を行い、所得を得ている場合、それが年間20万円を超える場合は、確定申告の義務があります。
なお、不動産投資以外にも事業などを行っている場合などで、本業の給与以外に複数の所得がある場合はそれらの所得の合計が20万円を超えたら確定申告をしなければなりません。
一方、給与以外の所得金額が年間20万円以下の場合は、確定申告をする義務はありません。
ただし、義務はなくても、申告をすることで税金が減って有利となる場合があります。この点については、記事の最後で述べます。そのため、不動産投資をしているなら、所得が20万円超でも以下でも、基本的には毎年確定申告をするものだと思った方がいいでしょう。
確定申告をしないとどうなる?
なお、確定申告をしないということは納めるべき所得税等を納付していないということです。これは脱税行為であるため、罰則が設けられています。この場合、本来の納めるべき税金に加えて、「無申告加算税」と「延滞税」という追加の税金が課税される場合があります。
消防士の不動産所得の確定申告では「青色申告」と「白色申告」、どちらを選ぶ?
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。簡単にいうと、青色申告は正式な会計帳簿を提出しなければならない「本格版」、白色申告は、簡単な帳簿だけでいい「簡易版」です。
どうせなら簡単なら方がいい、と誰もが思うでしょうが、青色申告では「青色申告特別控除」という特別な控除金額を、所得から差し引く(控除する)ことができます。
また、それ以外にも、今年のマイナスを来年のプラスから引ける「純損失の繰越控除」、家族に支払った給料を経費にできる、「青色事業専従者給与」(条件あり)、その他の特典があります。つまり、しっかりした書類を作った“ご褒美”として、様々な面から税金を安くしてくれるのが青色申告です。
「本格版」とはいうものの、副業の不動産賃貸事業なら、収入も必要経費もほぼ決まり切ったものばかりでややこしいものはありません。また、いまはオンラインサービスで無料または安価で使える青色申告書作成ソフトなどもたくさんあるため、パソコンが特別に苦手という人でなければ自分で青色申告書を作ることは、それほど難しくありません。
基本的には青色申告を選ぶことをおすすめします。
なお、青色申告をするためには不動産の貸付を始めた日から2か月以内に納税地の税務署に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
公務員の不動産投資は、事業規模未満になる
「青色申告特別控除」には、10万円、55万円、65万円のいずれかの控除額がありますが、不動産事業運営を事業的規模(5棟または10室以上の運営)未満で行っている場合は、10万円控除に限られます。また、事業的規模未満では、「青色事業専従者給与」も利用できません。
消防士の場合、公務員として可能となる不動産投資は、原則として事業的規模未満のものに限られるので、注意しましょう。
確定申告で、不動産投資が節税になる場合
税金対策として不動産投資に興味を持ったという方も少なくないでしょう。ここからは節税効果が得られる仕組みについて解説します。
不動産所得の損益通算
損益通算とは異なる区分の所得赤字と黒字を相殺することです。不動産所得は、給与所得と損益通算できます。
たとえば、給与所得600万円の人が不動産投資を行い、不動産所得が△100万円だと仮定すると、所得全体は500万円に圧縮されます。所得税、住民税がその分減少するというわけです。なお、給与からは毎月、所得税、住民税が源泉徴収されているので、税金が減った分は、確定申告後に還付されることになります。
もっとも節税効果の大きい減価償却
上の説明を読んで、「損益通算されて税金が減るのはいいけど、そもそも毎年、所得が赤字になるような投資では失敗だし、最初から投資しない方がいいではないか」と、気づいた方もいるかもしれません。実は、ここに不動産投資の大きなメリットがあります。
そのキモになるのが、「減価償却」という仕組みです。
減価償却とは
長期間にわたり使用される固定資産の購入費用を、その資産の使用可能期間にわたって、分割して費用計上する手続きです。
投資用マンションのような資産は、長期間使って、それによって収入が得られるものなのに、買った年にまとめて費用として計上するのは実態に即していないため、一定の使用期間を見込み、分割して費用として計上するべき、という考え方から生まれたものです。
減価償却の計算の具体例
減価償却の実際の計算は複雑なので、ここでは簡易的な例で説明します。
例えば、3,000万円のワンルームを購入して、減価償却期間が30年だとします。実際に購入費用を支払うのは、購入した年ですが、必要経費として毎年100万ずつ、30年間にわたって計上していくことになります。現金の動きは1年目の3,000万円流出、帳簿の計算では毎年100万円ずつの必要経費計上と、現金と帳簿の計上とが異なることになります。
すると、2年目以降はまったく現金の流出がないにもかかわらず、100万円の費用が計上されていくことになります。
ここで、最初に重要だと説明した、「収入-必要経費=所得」を思い出してください。2年目以降は、実際の現金流出が伴わない、いわばバーチャルな必要経費としての100万円が計上されているため、「現金の動きは黒字だが、帳簿上は赤字」という状態になりやすいのです。
すると、「現金は増える、しかも税金は減る」という状態になります。これが不動産投資の節税メリットと呼ばれるものです。
そのため、不動産所得がマイナスであれば、確定申告をする必要はないのですが、絶対にした方がいいのです。
ただし、節税を第1の目的として不動産投資をするのはやめた方がいいでしょう。不動産投資はあくまでも資産形成の手段として取り組むべきであり、収益性の低い投資をするのは本末転倒です。
まとめ
この記事では不動産投資をする消防士が確定申告をする際のポイントについて解説しました。不動産投資をするのなら、確定申告は必須だと考えましょう。また、できればメリットの多い青色申告をすることをおすすめします。