不動産投資をした消防士が懲戒処分に……。いったいなぜ?

不動産投資は、副業が禁止されている消防士にもできる、おすすめの資産運用方法です。しかし、運用方法を間違えて公務員としてのルールに反してしまうと、処分の対象になってしまうため、注意が必要です。

本記事では、消防士が不動産投資で処分を受けた実例を見ながら、適切な運用方法を学んでいきましょう。

賃貸収入7千万円の消防士が懲戒免職に

「佐賀新聞」などで報道されたところによりますと、2016年9月、不動産投資により約7,000万円の家賃収入を得ていた佐賀広域消防局に所属する男性消防副士長が、改善命令に従わなかったとして懲戒免職処分を受けました。

この副士長は、マンションや貸店舗、駐車場など計12件を佐賀市内外に所有していたとのことで、同消防局が副士長に対して、「5棟10室、駐車台数10台未満、賃貸収入500万円以下」に縮小するように命令していましたが、期限を過ぎても応じなかったため、最終的に懲戒免職処分が下されたそうです。

この処分に対して、副士長は聞き取り調査で、「損をしてまで売るつもりはない」「兼業を禁じるのは時代に合っていない」などと話していたようです。

(「佐賀新聞」2016年9月1日 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/7582

なぜ懲戒免職というもっとも重い処分が下されたのか

ご存じの通り、公務員の懲戒免職はもっとも重い処分であり、退職金が不支給になるなど、大きな不利益が生じます。この副士長の不動産投資がなぜ懲戒免職に値するような、重大な違反だと判断されたのかを検討しましょう。

消防士を含む公務員は、当然ながら、一定の不動産を所有することは認められています。また、それを人に貸し出すことも認められています。では、今回のケースではなぜ処分が下されることになったのでしょうか。

①不動産投資は「5棟10室」未満が条件

公務員の不動産投資は、「一定規模以下であること」を条件に認められます。

具体的には、公務員が遵守すべき規則を定めた「人事院規則」14-8により、この「一定規模」は、次のように定義されています。

・独立家屋の賃貸は、家屋の数が5棟未満
・独立家屋以外の建物の賃貸は、貸与する部分の数が10室未満

つまり、一戸建てなら4棟まで、アパートやマンションなら9室までは所有することが認められるということになります。これが通常、「5棟10室」基準と呼ばれている、公務員の不動産投資の基準です。

5棟10室以上の不動産所有が明らかになれば、当然改善命令や懲戒処分が下されるリスクが生じることになります。

②年間の家賃収入は500万円未満でなければならない

人事院規則によると、年間の家賃収入が500万円以上となると、公務員の副業禁止規定に抵触してしまいます。

この条件は、先に紹介した5棟10室未満という条件と合わせて注意する必要があります。

たとえば、不動産を6室保有していた場合、5棟10室未満という条件は満たせますが、6室合計で年間500万以上の収入が発生してしまった場合、副業禁止規定に抵触してしまい、処分や改善命令が下される恐れが生じます。

今回取り上げた懲戒免職のケースでは、副士長はマンションや貸店舗、駐車場など計12件を所有し、賃料収入が約7,000万円あったそうです。つまり、①の基準も、②の基準も大幅に上回っています。その上、指摘されたにもかかわらず改善をしなかったことから、行き過ぎた不動産投資ということで、懲戒免職というもっとも重い処分が下されたものと思われます。

管理会社に不動産の管理を委託する必要もある

公務員は全体の奉仕者であり、国や地方公共団体などの職員として仕事をする必要があるため、不動産投資で本業に支障を来すことがあってはならないことは当然です。

そのため人事院規則では、不動産投資をする際は、物件の管理をすべて管理会社に委託するように明記されています。

今回の事件では、この点についての報道はありませんが、もし、消防士が所有する不動産を管理委託会社に委託していない場合、副業禁止規定に抵触しないよう、早急に委託先の管理会社を見つける必要があるでしょう。

副業禁止規定さえ守れば消防士は有利に不動産投資が可能

一方で、基準が定められているということは、その基準の範囲内かつ常識的な投資の範囲内であれば、消防士は不動産投資をすることができます。

そのため、正しい知識を身に着ければ、副業とは見なされずに安定した収入を得ることが可能です。

多くの公務員は過度に気にする必要はない

今回取り上げた消防士の懲戒処分は極端なケースです。

多くの公務員にとって、今回の事例のように5棟10室以上、年額500万円以上の家賃収入を得るほど大掛かりな投資を行うことは、多額の自己資金が必要であることからも、考えにくいことです。

不動産投資をしている場合でも、数室、あるいは1~2棟程度の不動産を所有し、老後のために堅実な利益を狙って運用している方がほとんどだと思われます。また、毎年発生する利益は所有している物件からある程度予想できます。

そのため、予想される年間の家賃収入が500万円に満たないのであれば、多額の利益が発生したときのことを考えて心配する必要はありません。

まとめ

公務員の与信力の高さを考えると、副業禁止規定の範囲内であれば、消防士が不動産投資をするというのは、決して悪い選択ではありません。

公務員に認められている不動産投資の条件を十分に確認し、有意義な将来設計を立てていきましょう。