消防士が個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入するメリットと注意点

長年、公務員の老後生活を支えてきた年金制度は、2015年に共済年金が厚生年金に一元化され、将来受け取れる金額が以前に比べて減っています。その一方、2017年には公務員でも個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入できるようになり、自助努力で老後資金を増やせるようになりました。

今回は、消防士がiDeCoに加入するメリットや、注意点について解説していきます。

公務員の年金支給額は減っていく

消防士も含め、公務員は従来、手厚い年金制度に守られ、安定した老後を過ごせると考えられてきました。しかし、今後はその年金支給額も減っていくと考えられています。

日本の公的年金制度は、大きく分けて「国民年金」「厚生年金」「共済年金」の3種類がありました。国民年金は全国民が加入しますが、サラリーマンなどは厚生年金によって、公務員は共済年金によって年金が上乗せされていました。これを「2階建て」といいます。

さらに、共済年金は「職域加算」によって上乗せされ、「3階建て」部分が設けられており、同条件の民間の会社員などに比べて、多額の年金を受けることができました。このことから「公務員の老後は安泰」とされてきたのです。

ところが、2015年に共済年金は厚生年金に統合され、職域加算は廃止されることになりました。これにより、公務員は保険料の上昇や加入年齢の上限などの制限を受けるようになったのです。

公務員も老後資金の自助努力が必要に

2019年の金融庁の報告書では、夫婦で95歳まで生きた場合30年の年金生活で2,000万円の貯蓄が必要とする、いわゆる世間を騒がせた「老後2,000万円問題」について記載されています。

さらに、退職金についても、現在まで公務員はおよそ2,000万円の退職金が支給されていますが、今後は減額される見通しです。

つまり消防士をはじめ、公務員も年金支給額や退職金の減額によって、とくに若い世代は自分たちで資産を運用し、老後を乗り切る必要が出てきたのです。その方法の1つとして注目されているのが個人型確定拠出年金(iDeCo)です。

iDeCoは2001年1月にスタートした私的年金で、自分で申し込んで毎月掛金を支払い、どのような対象で運用するかを自分で決めます。そして、受け取り可能な年齢になったら給付金を受け取ることができる制度です。

制度のスタート後、公務員は 長い間加入対象外でしたが、2017年1月の法改正により公務員の加入も認められるようになりました。

個人型確定拠出年金(iDeCo)のメリット

では、iDeCoに加入することには、どんなメリットがあるのでしょうか。

掛金が全額所得控除になる

iDeCoは、支払った掛金が全額所得控除(所得税・住民税の課税対象外とされる)されるため節税となります。例えば、普通の貯金や投資は、税引き後の所得税などが差し引かれた税引き後の手取り金額から行いますが、iDeCoは税引前の金額で投資できるので有利に運用できます。

なお、所得控除は掛金の払込方法や加入者区分によって手続き内容が異なるため、よく確認しましょう。

運用益に課税されない

通常、株式投資など一般的な金融商品の運用益(売買利益や配当金)に対しては、20.315%の源泉分離課税(所得税、住民税、復興特別税)が課されます。100万円の運用益を得ても、約20万円は課税され、手残りは約80万円になるということです。

一方で、iDeCoで投資をして得られた運用益は非課税です。

60歳以降の受け取りも一定額非課税扱い

iDeCoは60歳以降に給付を受けられる制度ですが、年金として分割で受け取る場合は公的年金等控除の対象になります。

また、一時金として一括で受け取ることもできますが、その場合は退職所得控除として、大幅な非課税枠が認められます。ただし、勤務先からの退職金と同じ年にiDeCoを一時金として受け取ると、退職所得控除の計算に調整がなされるため、注意が必要です。

なお、iDeCoは現在、60歳以降70歳になるまでの間に受け取る必要がありますが、2022年4月からは60歳から75歳になるまでに変更されます。公的年金の繰下げも75歳になるまで可能になることもあり、老後の資金繰りに合わせて受け取る時期を調整できるようになっています。

さらに、これまでは加入できる(掛金を掛けられる)年齢が60歳になるまでと決められていましたが、2022年5月からは原則65歳になるまで掛け続けることができるようになるため、50代などの定年が近い世代でも、より長く運用することができるようになります。

iDeCoを利用する際の注意点

ここまでiDeCoのメリットについて紹介してきましたが、運用の際には注意点もあります。よく理解してから運用を始めましょう。

公務員は拠出できる金額が少ない

iDeCoは、民間会社員と公務員で月に拠出できる上限金額が異なります。

企業年金のない民間会社員の場合、月最大2万3,000円まで拠出できますが、公務員は現在上限が1万2,000円までとなっています(ただし、2024年に予定されている法改正により、公務員が月に拠出できる上限額が2万円に変更される見通しです)。

現在は、公務員の場合満額を拠出したとしても、年間14万4,000円しか掛けることができず、将来の備えとしてはやや不安が残ります。ほかの資産運用の方法と組み合わせて利用すると良いでしょう。

運用を自分で行わなければならず、元本割れのリスクがある

iDeCoは、あらかじめ用意された投資対象の中から、どんな対象に投資するのかを自分で決めます。そのため、最低限の投資知識は必要です。

また、元本が保証された定期預金タイプの商品もありますが、現在では利息がほぼゼロのため、ほとんどお金を増やせません。そこで多くの人が、株式タイプなどの投資信託を組み入れて運用しています。株式タイプの投資信託などは元本割れのリスクがあります。必ずしも将来的に受け取る金額が増えるとは限らないのです。

例えば将来、一時金を受け取るタイミングでリーマンショックのような暴落があれば、せっかく長い間運用しても受け取る額が積み立てた額よりも少なくなってしまうリスクがあるのです。

60歳になるまで給付金を受け取れない

iDeCoは積み立てNISAなどと異なり、60歳になるまで給付金を受け取ることができません。そのため、積み立てるお金はあくまで余剰資金を活用するのが基本です。

しかし、まだ20〜30歳代の若い消防士の方なら、今後転職や転勤、子どもの出産、進学などにより思わぬ出費が発生することもあるでしょう。このような場合、iDeCoで運用しているお金を引き出すことができない点は大きなデメリットだといえます。

iDeCoは非常に有利な制度だが、それだけでは不安が残る

さまざまな面での有利な非課税制度が設けられたiDeCoは、消防士がぜひ活用したい制度です。

一方で、iDeCoはいざというときにお金を引き出せなかったり、民間会社員と比較して拠出金の上限額が低く設定されたりしているなど、老後への備えとしてはやや不安が残ります。

そこで、消防士の社会的信用や安定した雇用、ライフプランの設計のしやすさなどを活用し、不動産投資など、より大きな利益を得られる可能性がある投資方法も検討するのもいいでしょう。

年金や退職金が目減りしていく中、さまざまな資産形成の方法を通じて、豊かな老後をめざしていきましょう。