「相続税」は、消防士にはあまり関係ないのでは?と感じられる方がいるかも知れません。しかし実際には、消防士や元消防士でも、相続税を申告・あるいは納付しなければならない人は意外と多いのです。
本記事では、消防士が知っておきたい相続税の基本と、相続対策(相続税対策)について説明します。
相続税を納付するのはどんな人?
相続税は、消費税や所得税のように、ほとんどすべての人に関係してくる税ではありません。なぜなら相続税が課税されるのは、一定金額以上の財産が相続される場合だけだからです。
そのため、「相続税の心配は特別なお金持ちのだけの話で、公務員には関係ない」と思われている方もいるかも知れません。たしかに以前はその通りでしたが、少し前の法律改正によって、いまは状況が変わっています。
相続税が課税されるかされないかを線引きするのが、相続税の「基礎控除」の金額です。この基礎控除額が、2015年の税制改正で大きく引き下げられました。そのために、以前よりも多くの人に、相続税が関係することになっているのです。
普通の消防士でも、定年まで勤め上げて、浪費をせずに堅実な資産形成を心がけてきた方、あるいは、自分の親から自宅不動産を受け継いでお住まいの方などは、この基礎控除を超えてしまう可能性は大きいでしょう。
相続税基礎控除の計算
具体的な数字を確認しましょう。相続税の基礎控除額は、次のように計算します。
・3,000万円 + (法定相続人×600万円)
(※法定相続人とは、民法で定められた相続の権利を持つ人のこと)
例えば、ご夫婦と子が1人いる家庭で夫が亡くなった場合、法定相続人は配偶者(妻)と子の計2名になります。したがって基礎控除は、
・3,000万円 + (2人×600万円) = 4,200万円
と計算されます。相続財産が4,200万円までなら無税で、4,200万円を超えたら、その超えた部分に相続税がかかる可能性があるということです。
いかがでしょうか? 例えば東京都内で戸建て住宅を持っている方はもちろん、マンション暮らしの方でも、簡単に超えてしまいそうだと思いませんか?
実際、2015年の相続税法改正前は、相続税を納付する人は全国平均で約4%しかいませんでした。ところが、現在は全国平均で約8%、東京国税局の管轄(東京都、千葉県、神奈川県、山梨県)では、約13%にも上ります。つまり約8人に1人は相続税を納めているのです。民間企業に比べれば高い給与水準となる消防士にとっても、決して他人事ではないでしょう。
不動産が相続税対策になる5つの理由
相続税は相続人(相続財産を受け取った妻や子など)に課せられるものです。「遺された妻や子に、余計な負担や心配をかけたくない」という意味でも、相続税が課税される可能性があるのなら、早めに相続税対策を検討した方がいいでしょう。
もちろん、お金を浪費して資産を使い切ってしまえば、相続税はかからない訳ですが、それは本末転倒でしょう。資産をしっかり遺しながら、なおかつ相続税対策としても役立つ方法を取らなければなりません。そのために、もっとも有力なのは不動産投資です。つまり、マンションなどの不動産を購入して、それを人に貸し出す方法です。
では、なぜ不動産投資は相続税対策として有効なのでしょうか。それは、主に次の5つの理由によります。
(1)不動産は、相続財産としての評価額が、現預金よりも大幅に下がる
相続財産は、被相続人(亡くなった方)が死亡した時点での「相続税評価額」で計算されます。その評価のルールは、国税庁の「財産評価基本通達」という通達で定められています。
たとえば5,000万円の預金なら、5,000万円(+利息分)が時価になります。ところが、5,000万円で買った不動産の相続税評価額は、5,000万円よりも大きく下がるのです。この評価減が、不動産投資が相続税対策になる最大の理由です。
(2)人に貸している不動産は、自分で使っている不動産よりも評価額が下がる
不動産の評価において、(1)のルールに加えて「人に賃貸をしている不動産は、自分で住んでいる不動産よりも低い評価になる」というルールもあります。そこで、投資用不動産を購入して人に貸すと、さらに相続税を圧縮する効果が大きくなります。
(3)不動産の中でも、マンションはとくに評価が低くなる。
相続財産の不動産を評価する場合、土地と建物は、別々の基準で評価されます。土地は「路線価」という価格(都市部の場合)を基準に評価され、建物は「固定資産税評価額」を基準に評価されます。土地に比べて、建物の評価額はかなり低くなります。
建物の場合は購入から時間が経てば評価も少しずつ下がりますが、土地の場合は購入時から時間が経ってもそれほど路線価が下がらず、エリアによっては買ったときよりも上がっていることもあります。つまり、同じ不動産といっても、一般的には建物より土地のほうが高い評価となるのです。
マンション(区分所有)の場合、土地の評価額は、それぞれの住戸の広さに応じて按分されます。仮に住戸面積が同じだと仮定すると、全20戸のマンションなら敷地の20分の1、100戸のマンショなら100分の1が、所有している土地の割合になるというわけです(概算です)。そのため評価額に占める土地の割合が低くなり、そのことも、相続税の評価上有利に働きます。
(4)融資の残高はマイナスの相続財産となる
不動産投資をする場合、融資を受けるのが一般的ですが、未返済の残高があれば、それは相続人に引き継がれます。相続財産の計算上、その金額はマイナスの相続財産として、ほかのプラスの相続財産から差し引かれることになります。
このことも、相続税を圧縮する効果を生みます。「妻や子に借金を遺すなんて」と思われるかもしれませんが、毎月の返済額が、毎月の家賃収入の範囲内であれば、そのことで相続人に大きな負担が生じることはありません。
(5)小規模宅地等の特例の適用も受けられる
相続に際して、一定の条件にあてはまる小規模な土地については、相続税評価を大きく減らす「小規模宅地等の特例」という制度があります。投資用不動産にこの制度が適用できれば、評価額をさらに下げることもできます。一定の条件を満たせば、自宅不動産と、投資用不動産の両方に適用することも可能です(適用上限あり)。
不動産の注意点
不動産投資をして相続財産として賃貸不動産を遺すことは、相続税の軽減には大いに役立ちます。ただし、効果が大きいだけに、「税金逃れだけが目的」だと税務署に判断されると、その効果が否定されることもあります。相続の直前に不動産を購入し、直後に売却するといった露骨なことをすれば、課税逃れが目的だと判断される可能性が高いでしょう。
また、投資として失敗があれば、つまり、空室が続いて収益がマイナスになるような不動産に投資してしまえば、いくら相続税が軽減されたとしても、トータルの損益で見ればマイナスになります。
当たり前のことですが、あくまで投資としてきちんと収益を得られる不動産に投資をして、長期間保有を続けることがポイントです。
まとめ
将来の相続を考える際には、まずは現状の資産のチェックをしてみて、相続税がかかりそうかどうかを確認するところから始めるのがいいでしょう。その上で、対策が必要そうであれば、不動産投資は有力な選択肢になります。