消防士なら押さえておきたい生命保険の入り方

署に出入りする保険募集人に言われるがままに保険に加入してしまい、適正な保険加入ができていない消防士は少なくありません。

しかし、もともと地方公務員の中では比較的給与も高く、また危険を伴う職業でもあることから、なんとなく加入し続けているという人も多いでしょう。

そこで本稿では、消防士のために、ライフステージ別の必要な保険の目安を説明します。

代表的な保険の種類と目的

保険選びが難しいのは、種類が多いことも理由の1つです。まず、代表的な保険の種類と特徴をまとめてみます。

保険の種類主な目的保険金を受け取る人
死亡保険(生命保険)自分が死亡後の、遺族の生活費を用意する家族
医療保険病気やケガで手術や入院、通院をしたときの医療費を用意する自分
がん保険、三大疾病保険医療保険と同様だが、対象ががんや三大疾病に限られる自分
学資保険子どもの学費の準備。自分が死亡しても保障が継続する。貯蓄と保険の両方の性質を持つ子ども、配偶者
個人年金保険老後の年金資金の準備自分、家族
損害保険他人の財産に損害を与えたり、他人にけがをさせたりしたときに補償する他人

ライフステージごとの保険の必要性

人が生まれてから死ぬまでの一生の中で、どの段階にいるのかを「ライフステージ」という言葉で表します。

保険は、万一のことが起きたときに保険金が支払われるものです。しかし、ライフステージによって、必要なお金は異なります。そこで、ライフステージにより必要な保険も異なるのです。

①就職後、結婚するまでの独身の間

配偶者や子といった家族がいませんから、家族が保険金を受け取る生命保険は、基本的に必要ありません。例外的には、親が存命で、親に保険金を遺したいという場合はあるかも知れません。例えば、親が貧困状態にある場合などです。そういった場合は、最低限度の定期保険(掛け捨て保険)に加入しておけばいいでしょう。保険金額500万円なら、月1,000円程度の保険料で加入できます。

一方、消防士という職業柄、けがや病気(うつ病などのメンタルの病気を含む)のリスクは比較的高いといえます。そのため、医療保険や就業不能保険の必要性が気になるかも知れません。

まず、もし職務上でのケガや病気が原因で働けなくなった場合、公務員災害補償制度による療養補償や休業補償、傷病補償年金など、比較的手厚い補償が用意されているため、民間の保険の必要性は低いといえるでしょう。

一方、公務によらないケガや病気で入院等をして給与が減額などされた場合は、共済組合からの傷病手当金が支給されます。

さらに、医療費には高額療養費制度というものもあり、一定額以上の医療費(収入にもよりますが、目安として月額8万円前後)は、自分で支払う必要はありません。

結論として、独身の間は、何か不測の事態があった際の当面の生活費として、生活費3カ月分程度の貯蓄を用意しておけば、医療保険や就業不能保険に加入する必要性は低いといえます。

②結婚して、配偶者が専業主婦(主夫)の場合

結婚後、配偶者が就業せず専業主婦(主夫)になる場合は、自分に万一のことがあった場合の配偶者の生活保障が必要です。

ただし、結婚時の年齢によっても考え方が変わります。

もし、30代前半くらいまでの比較的若い時期の結婚であれば、配偶者が「一生遊んで暮らせる」だけの保険金を用意しようと考えるのは、非現実的です。

たとえば、自分が亡くなったあと、3年~5年分くらいは遺族年金と保険金で生活してもらい、あとは配偶者自身に働いてもらう、あるいは再婚をしてもらうと考えることが現実的です。

そのため、例えば死亡保険金3,000万円~4,000万円程度の定期保険に加入するといいでしょう。定期保険は掛け捨てで、保険期間も限られている代わりに、保険料が比較的安く済みます。

一方、最近は40代以降の初婚も増えています。たとえば40代後半での結婚なら、定期保険ではなく、終身保険を検討してもいいかも知れません。

また、自分が重い病気になって長期入院するような場合、2人分の生活費を休業補償金等だけでまかなうのは難しいかも知れません。それに備えて、医療保険に加入を検討してもよいでしょう。

③結婚して、共働きの場合

共働きであれば、自分に万一のことがあっても、配偶者は生活に困ることはありません。したがって高額な死亡保障は必要ありません。生命保険に加入するとしても、葬儀費用としばらく喪に服す期間のために、500万円程度のものがあれば十分でしょう。

一方、医療保険に対する考え方は、専業主婦(主夫)の場合と同様です。

なお、40代までは、がんや三大疾病にかかるリスクは極めて低いので、それらの保険の必要性は低いと思われます。

④子どもができた場合

子どもができたら、最低でも子どもが成人するまでは扶養する義務があります。また、子どもの将来を考えると、やはり大学までは出させてあげたいと思うのが親心でしょう。そこで、子どもが大学を卒業するまでの生活費と学費を、生命保険で用意できればベターです。

例えば、子どもが生まれてすぐのときには、5,000万円~6,000万円程度の死亡保険金の保険に加入し、中学生、高校生と成長するのに合わせて、補償金額を見直していくという方法も考えられます。

なお、事故などで夫婦が同時に亡くなることもありえます。そういう場合に備えるのであれば、学資保険も検討に値するでしょう。

医療保険に関しては、結婚をしたときと同様の考え方でいいでしょう。

⑤住宅を購入したとき

住宅ローンを組んで住宅を購入する際、必ず団体信用生命保険(団信)への加入が求められます。団信とは、ローンの返済期間中に万一のことがあった場合、ローンの残りが一括返済される保険です。つまり、家族には、ローンを完済した自宅が遺されるということです。家族は居住費がほぼ不要になるため、必要な生活費は低減します。

もし、③~⑤の段階で生命保険に加入していたなら、団信による保障を踏まえて、すでに加入していた保険の保障額を見直すべきです。

⑥子どもが独立したとき

晩婚化の傾向が進む現代では、子どもが独立したとき、本人は50代になっていることが普通です。子どもの教育費への備えが不要になるので、生命保険の保障は大きく減額できるでしょう。

一方で、その年齢になると生活習慣病はもとより、がんや三大疾病など、重篤な病気を患うリスクも増大します。生命保険を減額して、その分、医療保険やがん保険、三大疾病保険などを増やすことがセオリーです。

また、家計に余裕があるのなら、個人年金保険への加入を検討してもいいでしょう。ただし、老後の備えにおいては、iDeCoやつみたてNISAなど、税金面で優遇されている制度がありますので、まずはそちらを優先した方がいいでしょう。その上でさらに余裕がある場合に、個人年金保険を検討しましょう。

まとめ

消防士は、休業補償などの公的な福利厚生が民間会社に比べて充実しており、また、確実に受けることができます。そのため、民間の保険が必要ない場面も多いです。まず、職場の公的保障についてしっかり認識しておくことで、それらと重複する無駄な保険への加入を防ぐことができます。